“よい人生”とは一体何なのだろう?
お金があって、友達がたくさんいて、魅力的な恋人がいる。
客観的に見ればそれらは素晴らしい人生に思える。
一見なんの不自由もなく、周囲から羨ましがられるような人生でしょう。
けれども、当人は全く満足していないことが往々にしてあります。
他人と比較し、「こんなんじゃダメだ」と自分を卑下し、自己嫌悪に苦しんでいるといったように。
一方で客観的には可哀想、不幸だと思われる人でも、当の本人は満足していることだってあります。
なぜ”幸福感”に違いが生まれるのだろう?
本書の著者”ロルフ・ドベリ”氏は、”どのような思考法を持っているか“が人生に大きな影響を与えると言います。
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成功者やビジネス書は「たった一つの原則」や「たったひとつの法則」を示そうとしますが、世界はそんなに単純なものではありません。
よい人生を説明できる究極の方法なんて存在しないのです。
私たちにできることは、”さまざまな思考法”を手に入れること。
ドベリ氏はこれらを「思考の道具箱」と呼んでいます。
当記事では、”よりよい人生“を送るために、”役に立つ思考の道具箱“をご紹介していきたいと思います。
1) なんでも柔軟に修正しよう
自分の思い通りにコントロールしたい。
誰もがそのような欲求を持っていることでしょう。
けれども、実際にはそんなに上手くいきません。
大抵部下は思い通りに動いてくれないし、子どもたちは、私たちの想像を遥かに超えてきます。
所詮は自分の頭で考えられる範囲には限界があるのです。
本書では次のようなクイズが出題されます。
あなたも答えを考えてみてください。
ちょっと想像してみてほしい。
あなたはいま、フランクフルト発ニューヨーク行きの飛行機に乗っているところだ。
「飛行中、機体されたルートを飛んでいる」のは飛行時間全体のどれくらいの割合だと思うだろうか?
飛行時間全体の90パーセント?80パーセント?それとも70パーセント?
正解は、なんと「ゼロパーセント」だ。
飛行機の窓を見ると、「補助翼」が常に動いています。
これは予定通りのルートを飛ぶために、補助翼が”なんども修正を繰り返している“ことを意味しています。
車の運転だってハンドルを握っていなければ、満足に直進することができません。
”修正することなし”には、まっすぐ走ることすらできないのです。
私たちは、計画通りに物事が運ぶことを望んでしまいます。
けれども本当に大切なのは、「修正しつづける」ことなのかもしれません。
修正技術を磨こう
人間関係を考えてみてください。
どれだけ幸せな結婚生活を送っていても、破綻してしまうかもしれません。
切れ味の鋭い刀だって定期的に研がなければ、いずれ錆びついてしまいます。
このようなことは、”始めの条件設定だけ”を重要視していると簡単に起こってしまいます。
微調整やメンテナンスを繰り返さなければ、同じ状態を保つことさえ困難なのです。
よい人生とは、”常に一定の状態であること”ではなく、”修正を繰り返した後に初めて手に入れられるもの”なのです。
2) SNSの評価から離れよう
今やスマートフォンやパソコンを持っていない人は少数派でしょう。
検索窓に知りたいことを打ち込めば、情報は簡単に手に入ります。
一方でSNSの評価に振り回されることも増えました。
Instagram・facebook・LINE。
それらの優れたツールは便利であると同時に、私たちの状況を浮き彫りにします。
知らなくてもいい情報まで、手に入るようになってしまったのです。
本書では、「内なるスコアカード」と「外のスコアカード」の違いを認識することが大切だと語られています。
つまり、
- 自分自身の基準
- 周りの人の基準
どちらが大切なのかということです。
投資の神様”ウォーレンバフェット”は次のように言っています。
「子どもは非常に早い段階で、親の価値基準を学びとる。あなたの両親が、あなたが実際になにをするかより、あなたが世間にどう思われるかを優先させれば、あなたは世間の評価を気にしながら育つことになる」と。
“承認欲求”があなたを潰す
他人からよく思われようとするのは、人間の本能が関係しています。
大昔、人類の祖先は狩猟採取時代の中で生きてきました。
周囲のために働きかければ、仲間として受け入れられ、嫌われれば集団からはじき出されてしまう。
やがて町や村が形成され始めると、人々は知らないもの同士の共同体を作るようになります。
その結果、私たちは他人からの評判を気にするようになったのです。
直接会ったことのない芸能人や普段関わることのない他人の噂話。
普段の会話を思い返してみると、ほとんどがそのような内容で埋め尽くされていないでしょうか?
井戸端会議、世間話といったものは、ずっと私たちの世界で幅を利かせ続けています。
ただ現代においては、それらに振り回されるべきではありません。
自分の価値基準をしっかりと持つ必要があるのです。
ジャーナリストのディビッド・ブルックスはこう述べている。
「ソーシャルメディアを使うと、みんな自分のイメージを演出するちょっとしたブランドマネージャのようになってしまう。
誰もがフェイスブックやツイッターやショートメッセージサービスや、インスタグラムを使って、元気で楽しげな外向けの自分を作りあげている」
ブルックスは、気をつけないと、私たちはいずれ「アプルーバル・シーキング・マシン(他者からの承認を求める機械)になってしまうと警告を発している」
世間の人は、あなたについて適当なことを書き、好きなことを言って、心を揺さぶってきます。
噂話を繰り返し、不安を煽り、ときには褒めて持ち上げてくるかもしれません。
これは「他者のスコアカード」に気を取られている状態であり、「内なるスコアカード」がまったく視野に入っていない状態だと言えます。
他者の行動や言動は、あなたにコントロールすることはできないし、そもそもする必要がない。
ただ自身の判断基準に従えばよいのです。
周りからの批難や褒め言葉は、できる限り受け流すようにしましょう。
3) 解決よりも、予防をしよう
”賢明な人物”と聞いて、あなたはどのような人物をイメージするでしょうか?
クイズのテレビ番組で歴代の首相や難しい数学問題に正解できる人。
問題が発生した際、適切に対処できる人。
そんなところでしょうか?
本書では、彼らは頭はいいけれど”賢明ではない“と語られています。
賢明さとは知識の蓄積や問題の対処能力ではありません。
”賢明さ”とは実際的な能力であり、困難をいかに避けられるかがポイントです。
賢明さの定義とはつまり、”困難に対して予防措置を施すこと“なのです。
アインシュタインは次のように言っています。
頭のいい人は問題を解決するが、賢明な人はそれをあらかじめ避けるものだ
未然の対処は地味だけれども、手腕が問われる
私たちが普段目にするのは、頭のいい人たちです。
彼らは問題が起こればうまく解決し、周りから賞賛を浴びる。
一方で賢明な人物は、未然に問題を避けるので、彼らの周囲では何も起こりません。
結果、注目を浴びることなく、賞賛も受けない。
しかし、本当に評価されるべきは後者なのだと言います。
ここで面白い例えがあるので、引用してみます。
たとえば、AとB、ふたつの「映画のプロット」があったとしよう。
Aの映画では、船は氷山に乗りあげ、ゆっくりと沈みはじめる。
船長は使命を果たすべく、見ていて胸が痛くなるような犠牲的な救出活動を行い、全乗客の命を救い出す。
そして最後まで船に残った船長が救命ボートに乗り込むと同時に、大きな水しぶきをあげて船は完全に沈没する。
Bの映画では、船長は十分な距離をとって氷山を迂回し、安全な航海を続ける。
あなたが映画館で観たいのは、どちらの映画だろう?
もちろん、Aに決まっている。
だが、あなたが実際に船に乗っている乗客だとしたら、もちろん、選ぶのはBのほうだろう。
このように私たちは、劇的な状況を望み、楽しみたいという気持ちを持っています。
その気持ちが”目の前の判断”を曇らせてしまいます。
本当に重要なのはどちらなのか、わからなくなってしまうのです。
- 企業を再生してみせた
- 炎上しているプロジェクトを立て直した
たしかにそれは賞賛に値します。
しかし、もっと高く評価されるべきなのは、未然に悪化の要因を防いでいる人たちなのでしょう。
私たちにできること
予防的な処置をとるには、知識だけではなく、想像力も必要とされます。
想像力というのは、ものごとのあらゆる可能性と予測できる結果を、結末までを含めて推測することです。
言葉にするのは簡単ですが、これは骨の折れる作業です。
どこから手をつけていいのかわからない、と感じるかもしれません。
ただちょっとした心がけと、習慣があれば、誰にだってできるのでご安心を。
1週間のうち、15分でいい。
あなたの人生で起こりうる「大きなリスク」について、集中して考える時間を持とう。
そうしたら残りの時間は、それらのリスクのことは忘れて、何も心配せずにリラックスして過ごせばいい。
その15分のあいだに、起こりうる失敗とその可能性をこと細かに予測しておくのだ。
たとえば、あならの結婚生活が破綻したり、あなたが突然破産したり、心筋梗塞を患ったりしたときのことを想像する。
そこから時間を遡って、(想像上の)その大きな問題の引き金となったのは何だったのか、「原因を徹底的に分析する」のだ。
またその過程の締めくくりとして、その問題が現実にならないよう、「予想される原因を取り除いておく」ことも忘れないようにしよう。
問題が起こった際の状況を想像し、その原因を分析する。
そして問題の発生を未然に防ぐには、何をすべきか予め考えて、対処しておけばいいのです。
現実を受け止め、適切な対処ができれば、問題は最小限で食い止めることができます。
最後に
僕はビジネス書の類は、正直好きではありません。
美辞麗句が書かれた、ありふれた言葉たち。
それらは”表面的な問題の対処法”が記載されているだけで、根本的な心の在り方については触れられないものばかりです。
けれども本書は、内面に訴えかけるような思考の道具箱について書かれていました。
一朝一夕で簡単にできるようなものはほとんどありません。
言葉でいうのは簡単だけれども、実際行動に移すのは、困難なものが大半です。
けれども、それらは”よりよい人生”を送るための必須ツールであり、身につけてしまえば自身によい影響を与えるものばかりです。
毎日枕元において、何度も読み返そう。
歯磨きや洗顔といった習慣になるまで、粘り強く繰り返せばいい。
そうすればきっと、幸福な人生を送ることができるはずです。
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