読書

号泣すると話題の”リアル”過ぎる芸人物語 | 『芸人交換日記』鈴木おさむ 著

“鈴木おさむ”さんといえば、”森三中の大島”さんの旦那さんとして有名ですが、放送作家としても知られています。

また著作も多数発表されており、その中でも”売れない芸人”を題材にした、「芸人交換日記~イエローハーツの物語~」は素晴らしい作品でした。

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当記事では本書を題材に「夢を持つこと、諦めないこと」の大切さをお伝えします。

“芽が出ない”漫才コンビの物語

30歳になっても売れない芸人

夢を諦めることができたんだ。

夢は持たなければならない。

特に若い頃は大人から、夢の重要性を説かれます。

けれども、それとは反対に主人公たちは夢を諦めることは才能だと主張します。

物語の主人公は、コンビ結成11年を迎える「イエローハーツ」という漫才コンビです。

ツッコミの”甲本“、ボケの”田中“は共に30歳。

オーディションを受けても箸にも棒にもらず、苦しい状況が続いていました。

そんな自分たちを脇目に、後輩たちはどんどん自分たちを追い越していく。

周囲から認められずに歳を重ねていく日々。

それは二人にとって、辛く切ないものでした。

想いを伝える交換日記

現状を打破するためにどうすればいいのか。

よし交換日記を書こう!

日ごろ面と向かっては言えない本音を書き綴ることでコンビの仲を深め、素晴らしい漫才を作ってやる。

この”交換日記”が彼らの未来を作っていきます。

甲本が始めた交換日記。

当初、田中は一向に乗ってきませんでした。

甲本はお調子者なのに対して、田中は冷静なタイプ。

小説では戯曲のように、最初から最後まで二人の掛け合いで物語が構成されています。

陰と陽。

二人の対照的なテンションが物語に奥行きを持たせ、掛け合いの面白さはなぜ二人が売れないのかが分からなくなるほどです。

最後のチャンスがやってきた・・・

そんな二人に最後のチャンスがやってきます。

それは「笑軍天下一決定戦」というテレビ放送されるほどの大きな大会でした。

この大会で優勝すれば、アルバイト生活やヒモ生活から卒業できる。

人気者になって、スターへの階段まっしぐらだ。

二人にとって、人生の分かれ道になるであろうビッグイベントでした。

でも、甲本は大会に出ようとしたがりません。

田中が何度説得しても首を縦にはふりません。

なぜ、甲本がこのようなチャンスから逃げようとするのか?

それは「絶対に失敗出来ない最後のチャンス」だったからです。

失敗したらもう後がない。

自分の才能のなさや、今までやってきた努力がすべて否定されてしまうのではないか。

恐怖が甲本を支配していたのです。

甲本は以前のお笑い大会で、言葉を噛んでしまったことがトラウマになっていました。

もしかしたら今回も失敗してしまうのではないかと怖かったんですね。

夢は必ずしも叶わない

最終的に、この漫才コンビは解散してしまいます。

その後の二人は、まったく異なる道を歩みます。

  • 田中:才能を認められて芸能界で人気者

  • 甲本:夢を諦めて家族と幸福に過ごす

才能溢れる田中と、凡人の甲本

解散した後、甲本はテレビに映る田中を見てこのようなことを言っています。

お前が諦めさせてくれたんだ。

俺の夢を諦めさせてくれた。

不思議だよな。

一緒に夢見てきたやつの漫才見て、自分の夢の諦めつくんだから・・・・。

甲本は田中の漫才を見ることで、長年の夢に区切りをつけることが出来たのです。

そして、

ー夢を諦めるのも才能だー

そうなんだよ。夢を諦めることってすげーことなんだよ

これみて思った。

今、毎日働いてて、結局俺には何の才能もないんだな・・・って思うことがよくある。

10年以上がんばったのに、俺には芸人としての才能もなかった。

だけど、1つ才能あったんだよ。

夢を諦めることが出来たんだよ。

10年以上追い続けてきた夢なんだぞ。

それを諦めたんだ。

すげーんだよ。

長年追い求めていた夢。

それは人生を懸けた挑戦であり、簡単に諦めることはできません。

覚悟を決めて目指したものであれば当然のことでしょう。

けれども、夢は必ずしも叶うものとは限りません。

すべての人が思い描いた場所に到達することは不可能です。

“夢を諦める”才能

そこで甲本が気付いたのは、“夢を諦める才能“の凄さでした。

漫才師の頂点を決める大会に「M-1グランプリ」があります。

この大会のユニークな点は、「敗者復活戦があること」と、「出場資格が設けられていること」にあります。

特に出場資格に関しては、「プロ・アマ問わず結成されて15年以内のコンビに限る」という制限があり、一定の芸歴を超えると出場できなくなっています。

なぜ出場資格を制限する必要性があるのか?

以下は有吉弘行さんの回答です。

「元々10年っていうのは“大体辞め時が10年だろ”って話でしょ?」

参照:有吉弘行『M-1』出場資格は「もういらない」

10年で花が開かない人は、その後も芽が出るとは考えにくいです。

区切りを設けるのは、彼らに対して、辞めるきっかけを提供するということ。

芸人というのは実力がすべての世界です。

どれだけ努力したところで、売れなければ結果はゼロのままです。

パッと出の才能溢れる芸人に追い越され、才能の無さを自覚させられても、売れようという気持ちを持ってすべての芸能人は頑張っています。

けれども、成功者の枠は限られています。

誰もがプロ野球選手になれないように、誰もが芸人になれる訳ではない。

その現実を、芸歴という壁を設けることによって教えてあげているのですね。

“非情”ではなく”救済”である

このシステムは一見非情なものに思えます。

夢を持って目標に向かっている人たちの道を閉ざしてしまうんですからね。

でも本当は非情ではなく、救いなのかもしれません

なかには一度芸人になると宣言してしまったために、引っ込みがつかなくなってしまった人もいるはずです。

そうした人に対しても、「制限で道を閉ざす」ことによって救済しているのですね。

“夢を諦めること”は才能の一つなのです。

最後に

著者である鈴木おさむさんは、この本には別の大切なメッセージがあるとインタビューで答えています。

「夢を諦めるのも才能だ」と本書では言っているけど、「夢を見つづけて努力するのも才能」だし、「この仕事がやりたい!」って夢を持っていることがそもそも才能だと思う。

だって俺はなんにもやりたいことがなくて、なんかいつの間にかフリーライターになっていたから。

でも、今はそれが楽しいんだけどね。

『芸人交換日記』は、夢を持っていたけど特に今は何もしていないって人に読んでもらいたい。

そして「夢を持っていた」ってこと自体がすでに才能だったんだって思い出して欲しい。

諦めるのも続けるのも、そこからじゃないのかなあ

参照:夢を諦めるのも才能だ! 放送作家・鈴木おさむから若手芸人へのメッセージ

鈴木さんが言っているように、この作品は決して”夢を諦めることだけが正しい”と主張している訳ではありません。

夢を持つことの大切さ、諦めない大切さも同時に教えてくれています。

ちなみに僕はこの作品を読んで、ボロボロと涙を流してしまいました。

それくらい感動するし、勇気をもらえる作品です。

ぜひ一度読んでみて欲しいです!

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こちらは田中圭さんとオードリ若林さんによる演劇です。

実際に売れない時期を経験をした役者が放つ言葉は、重く、心に響いてきました。

個人的には演劇版の方が好きで、何度見返しても涙が出る作品です。

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