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映画『君の膵臓をたべたい』は”生きる”意味を教えてくれた

2017年に公開され、興行収入30億円を突破した大ヒット映画「君の膵臓をたべたい」

若い人たちから中高年まで、幅広い層に支持された本作の魅力とは何だったのでしょうか?

「君の膵臓をたべたい」の基本情報

【監督】月川翔(「君と100回目の恋」他)
【脚本】吉田智子(「わろてんか」他)
【原作】住野よる(「夜のばけもの」他)
【配給】東宝
【時間】115分

監督は、「世界の中心で愛をさけぶ」や「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」などのヒット作品を手がけた月川翔監督。

すでにベストセラーとなっていた”住野よる”氏の本作をいかに映像化するかに注目が集まっていました。

月川監督は、次の点を意識したと言います。

「僕も原作が好きだったんです。が、原作にない“十二年後の設定”を作るという部分で、原作ファンの人が嫌な思いをしないか、住野先生も嫌な気持ちにならないよう、となどいろいろ考え、そういう意味ではプレッシャーでしたね。

小説と映画は、一対一のイコールで変換できるものではないから、やっぱり映画用に脚色はしなければいけない。その脚色の仕方でがっかりする人が出ないようにしたいなと思いました

参照:【単独インタビュー】月川翔監督に聞いた映画『君の膵臓をたべたい』大ヒットの裏側

小説と映画は、必ずしもイコールではない。
映画ならではの設定を組みこむコトで、作品としての奥行きをいかに創造するか。
原作の良さを壊さずに、脚色を施すか。

原作ファンである人達にも楽しんでもらえるように、工夫がなされていたんですね。

「君の膵臓をたべたい」は何度も観たくなる映画

僕が本作を視聴する前、
「ありきたりの設定」、「泣かせに来ている映画」といった批判的な意見を目にしていました。

確かに本作では、「人の死」や「幼馴染との結婚」、「クラス一の人気者と冴えない同級生が近づく」といった、”ありふれた”設定が散りばめられていました。

けれども、彼らが織りなす群像劇に入り込めば、そんなものは正直どうでもよくなりました。

日常なんて、他人から見れば取るに足りないありふれたものに過ぎないのかもしれない。

しかし、当人にとっては意味のある価値ある一日なんです。

病気の中で懸命に生きる少女に影響され、周囲の人間が変わり始める。
人との出会いが人生に与える影響について、教えてもらった気がします。

対照的な二人の主人公

主人公の山内桜良(浜辺美波)は、クラス一の人気者。
明るく元気で、青春の一ページをキラキラと過ごしている姿は非常に眩しい。

一方の冴えない同級生、志賀春樹(北村匠海)は読書好きな内向的な青年。人を信頼できず、自分の殻に閉じこもっている。

そんな対照的な二人を1冊の文庫本が引き合わせる。そう「共病文庫」だ。

桜良は膵臓の病気に罹っていて、長くは生きられない。
クラス一の人気者には、誰にも言えない秘密があったのです。

限られた命の中でどういきるか

死を突きつけられた人間は、人生に絶望するのか、それとも残りの人生に喜びを見出そうとするのか。

彼女は前者だった。

美味しい物を食べて、まだ見ぬ土地へ旅行して、男の子とデートがしたい。

そんなありふれた願望であっても、彼女には簡単なことじゃない。
命の砂時
計は残り少ない。周囲を心配させたくないので、病気のコトは周囲に話せない。親友にだってそうだ。親の前では、病気のことなんて気にしていない、明るい少女を演じなければならない。

そんな時、冴えない同級生に秘密を知られた。
でも彼は、彼女に対して”無関心”で居てくれた。

無関心は、時に人を開放してくれる。

無関心という救い

春樹は自分の殻に閉じこもるが故に、他者との関わりを避けようとする。

他者と親密になるのを恐れ、必要以上には決して干渉しない。

桜良にとっては、病気について干渉されない居心地のいい距離感だった。
ただ淡々と日々を過ごせることは、彼女にとって救いだったんです。

病人に対して、僕たちは優しく接しようとして、必要以上に気を遣ってしまう。

しかし当人は、普段通りに接して欲しかったりする。
優しくされればされる程、苦しくなり、「気を遣わせてしまっている自分自身」に嫌気が差すことにもなる。

優しさは、時に他者を傷つける。

どれだけ正しくても、人間の感情は複雑であり、上手く気持ちが伝わるとは限らないものだ。

徐々に縮まる距離感と”恋”の兆し

春樹は当初、次のように語っていた。
人に興味を持たないから、人からも興味を持たれないんだろうね。誰も損してないから、僕はそれでよかった。」と

無関心を貫き通していた春樹に対して、桜良は無邪気に接触を繰り返す。その無邪気な姿に、春樹の心は少しずつ解け始める。

いつしか二人はお互いのことを大切な存在だと認識していくのです。

そして、生きるとは何かを真剣に考え始めるのです。

”生きるとは何か?”、考えたことはありますか。

毎日が同じことの繰り返し。
変わり映えのしない、平凡な日常。

それらの積み重ねが生きるというコトであり、些末な選択の一つ一つが未来を形作るのかもしれない。

桜良は、
私たちは皆、自分で選んでここに来たの。偶然じゃない。運命なんかでもない。
君が今まで選んできた選択と、私が今までしてきた選択が私たちを会わせたの。
私たちは自分の意思で出会ったんだよ。
」と言った。

また、
生きるってのはね、きっと誰かと心を通わせることそのものを指して、生きるって呼ぶんだよ。
誰かを認める、誰かを好きになる、誰かを嫌いになる。誰かと一緒にいて楽しい、誰かと一緒にいたら鬱陶しい。
誰かとハグする、誰かとすれ違う。それが生きる。
」とも言った。

人は他者との繋がりの中で、”生きる”ことが出来る。

あの季節、あの日、あの場所で親密な他者と過ごした思い出が、人の記憶に堆積する。その積み重ねが、一人の人生を作る。それが生きるというコトなのかもしれない。

最後に

本作は内容はもちろん、演じていた役者さんが素晴らしかった。
特に桜良を演じた、”浜辺美波”さんの演技は圧巻です。

同じセリフでも、微妙に声のトーンが違うし、笑顔の中に表現される寂しさなど、細部に至る人間の感情が表現されていた。

何度見ても新しい発見がある。そんな映画になっています。