読書

カミュの『ペスト』と新型コロナウィルスの類似性 | 感染症が広がるプロセスと人間心理

  • カミュの「ペスト」ってどんな物語?

  • 感染症が流行るまでのプロセスが知りたい

  • 感染症の最中にいる人間の心理を学びたい

新型コロナウイルスが世界各国に大打撃を与えています。

鉄道や飛行機といったインフラだけでなく、ショッピングモールや学校など人々の暮らしにまで影響が及んでいる状況です。

人類の歴史は「感染症」との戦いの歴史である。

いつの時代も人々は感染症を恐れてきました。

助けてくださいと「神様への祈り」を捧げたり、効く薬があると聞けば情報に飛びつき、藁にもすがる思いで生き延びようとしてきたのです。

その過程で宗教は発展と没落を繰り返し、国が滅びることさえありました。

どんな感染症もいずれは収束に向かいます。

ただし収束とはいっても、その渦中にいる僕たちには「いつ」それが終わるかわかりません。

ウィルスという見えない敵が、攻撃を止めるのをただ待っていることしかできないのです。

異邦人』で有名なフランス人作家アルベール・カミュの小説『ペスト』がよく売れています。

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不条理をモチーフにした本作は、1947年に書かれた作品であるにも関わらず、空前の大ヒットとなっています。

また東日本大震災といった未曾有の事態が起きた際にも、売り上げが激増した過去もあります。

なぜこれほど人気が出たのでしょうか?

それは感染症との戦いを通じて翻弄される人々の「人情」や「心理的変化」、「人間性」といった「内面にスポット」を当てて物語が描かれているからです。

だいちゃん
だいちゃん
この記事では書籍「ペスト」を題材に、「不条理の中で人はどのように変化し、乗り越えていくのか」を中心に解説していきます。 

新型コロナウィルスに支配される世界と小説世界は、深く繋がっています。

小説『ペスト』から私たちが学べること

本作はフランスのオラン市を舞台に繰り広げられる物語です。

ある日、街でねずみの死体が発見される。

その数は次第に増加し、あちこちで噂されるほどに膨れ上がりました。

この街で何かが起きている

医師のリウーが街の異変に気付いた頃には、すでに見慣れない症状が出始めていました。

高熱が出て、リンパ腺が腫れ、腹脇に斑紋が出て、苦しんでいる患者の急増です。

またたく間に街はペストで覆われ、オラン市はロックダウンされることになりました。

人は想定を超えた「天災」から現実逃避する

天災というものは人間の尺度とは一致しない。

したがって天災は非現実的なもの、やがて過ぎ去る悪魔だと考えられる。

ところが、天災は必ずしも過ぎ去らないし、悪魔から悪魔へ、人間の方が過ぎ去って行くことになり、それも人間中心主義たちがまず第一にということになるのは、彼らは自分で用心というものをしなかったからである。

わが市民たちも人並み以上に不心得だったわけではなく、謙虚な心構えを忘れていたというだけのことであって、自分たちにとって、すべてはまだ可能であると考えていたわけであるが、それはつまり天災は起こりえないとみなすことであった。

私たちは突然 「天災」 が起こっても、それが現実だと信じることができません。

東日本大震災で発生した、街を飲み込む河川の氾濫を誰が信じられたでしょうか?

多くの人が現実のことだとは思えなかったはずです。

コロナウィルスにしても、当初は武漢だけで終わるものだと考えられていました。

まさか世界中に飛散し、何百万人もの命を奪うとは想像もできませんでした。

天災は人の想像をはるかに超えてきます。

そして想定の範囲を超えた物事を、人間は簡単に受け入れることができないのです。

オラン市でも「ペスト」という現実を受け入れられず、人々は現実逃避を始めます。

彼らは取引を行うことを続け、旅行の準備をしたり、意見をいだいたりしていた。

ペストという、未来も、移動も、議論も封じてしまうものなど、どうして考えられたであろうか。

彼らは自ら自由であると信じていたし、しかも、天災というものがあるかぎり、何びとも決して自由ではありえないのである。

「ロックダウン」の最中、人々はどのように振る舞うのか

都市封鎖が行われ、ペストが現実味を帯びてくると、人々は様々な思いを抱き始めます。

そして自らの正義に従って、行動を始めるのです。

  • 都市封鎖から逃れようとする者

  • 人々を救おうとする者

  • 状況を観察する者

  • ペストで覆われた街を望む者

  • 新たな自分の居場所を見出す者

それぞれがペストに覆われた街で、新しい生活と役割を見出していきます。

本作の面白さは、彼らの心理的な描写や振る舞いのいずれかが、自分と重なる点にあるのかもしれません。

『ペスト』は決して架空の小説ではない

マスメディアは人々の不安を煽るように、日々の感染者数を報道し始めます。

疫病の一段階が画されたのは、ラジオがもう週に何百という死亡数ではなく、日に九十二名、百七名、百二十名というような死者を報じるようになった時であった、と的確な観察を持って記している。

次第に人々は疲労感を持ち始めます。

奇妙なことには、すべての乗客はできうるかぎりの範囲で背を向けあって、互いに接触を避けようとしているのである。

(省略)

頻繁に、ただの不機嫌だけに原因する喧嘩が起こり、この不機嫌は慢性的なものになってきた。

そして、不安感からフェイクニュースが蔓延し、街からものがなくなっていきます。

また別のところでは、ハッカドロップが薬屋から姿を決してしまったが、それは多くの人々が、不測の感染を予防するために、それをしゃぶるようになったからである。

日本では情報が入り乱れ、2020年には街から「トイレットペーパー」や「一部の食料品」が消えてしまいました。

物がなくなるという不安感が社会で共有され、デマが現実になってしまったのです。

いかに現実と小説との類似点が多いかがわかる一節でしょう。

「人の心」はいつの時代も変わらない

人類は科学と文明の力で、とてつもなく大きな社会を形成してきました。

一人では何もできなくたって、道具や頭脳を駆使することで様々な脅威にも対抗できる力を手に入れたと感じていた人は多いんじゃないでしょうか?

だいちゃん
だいちゃん
いくら科学が進歩しようとも、「人間そのもの」は何も変わっていないんです。 

例えば、人間の心に存在している想いです。

保健隊で献身的に働いた人々も、事実そうたいして奇特なことをしたわけではなく、つまり彼らはこれこそなすべき唯一のことであるのを知っていたのであって、それを決意しないことのほうが、当時としてはむしろ信じられぬことだったかもしれないのである。

こういう隊が作られたことは、市民たちが一層深くペストのなかに入り込むことを助け、病疫が現に目の前にある以上は、それと戦うためになすべきことをなさねばならぬということを、一部分、彼らに納得させたのである。

また次のように、

実に長い間、この街の人々の上にそのあわれみの御顔を臨ませたもうていられた神も、待つことに倦み、永劫の期待を裏切られて、今やその目をそむけたもうたのであります。

神の御光を奪われて、私どもは今後長く続くペストの暗黒のなかに落ちてしまいました!

理解できないものに襲われたとき、人は「絶対的」なものにすがりつこうとします。

それは宗教や信仰だったりするのです。

カミュは人間の普遍的な「心理」を鮮明に描いています。

私たちができる感染症対策はいたって「シンプル」

本作はあくまで小説です。

ただし、ただの小説ではなく、現代を生き抜くヒントがたくさん詰まっています。

新型コロナウィルスの影響はいつ弱まるかわかりませんし、多くの人は不安を感じているでしょう?

連日のように感染者や死者の数が報じられ、ついには日本でも緊急事態宣言が発令されました。

小説のロックダウンのような状況が、現実に発生してしまったのです。

情報番組は繰り返し同じことばかりを語ります。

  • 人を避けて、3密を作ってはならない

  • 手洗いうがいをして、出来る限り家からは出るな

結局、人間にはその程度のことしかできないのです。

けれども、決して悲観する必要はありません。

やれることが少ないのだから、僕たち一人ひとりが個人レベルでできる事柄は容易に理解できるはずです。

それを実行に移すことで、自分たちの未来はきっと、いや、必ず変えられます。

最後に

小説ではペストの収束までしか描かれません。

それは恐らく、収束後の世界は私たち一人ひとりが形作っていくものであり、未来は君たち次第だという、カミュからのメッセージなのではないかと思っています。

コロナウィルスが終わった時、社会はどのようになっているのでしょうか?

既存の枠組みは崩れ、新しい波に飲み込まれてしまうのでしょうか?

はたまた、進歩ではなく過去のやり方に先祖返りするのだろうか?

いずれにしても、僕たちの社会は多少なりとも変化し、まだ見ぬステージへと突入していくはずです。

このウィルスからどのような教訓を得て、未来に繋げるか。

それは一人ひとりにかかっているのです。

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