サブカルチャー

子どもの方が大人より”勇気”があることが、”ソロモンの偽証”で発覚した件

子どもの頃、想像していた”オトナ”に僕はなることが出来たのだろうか。

 

ふとそんなことを考える。

 

小学生の時は、中学生のことを。高校生になれば大学生のことを。常に未来の自分に重ね合わせてみていた気がします。

あと数年したら自分もこんな風になるんだ。優しく、思いやりを持った”かっこいい”人になれるんだ。そう思っていました。

 

でも、結局憧れていた人たちは、あくまで憧れの存在であって、僕が手を伸ばしても届かないんだって年を経るごとに感じるようになりました。

何もせずに年をとっても結局は同じ地点に居続けることになる。何の努力もせずに彼ら・彼女らに近づくことは出来ないんだなって。

 

宮部みゆきの”最高傑作”

宮部みゆきさんの作品「ソロモンの偽証」は、バブル崩壊後の1990年に、中学2年生の男子生徒が亡くなる所から物語が始まります。

 

亡くなった生徒は、自殺なのか、それとも誰かの手によって殺されたのか。主人公の少女は、真相を解明するために”学校内裁判”を起こし、事件の核心に迫っていくというストーリーです。

 

主人公の藤野涼子はいたって平凡な中学生です。特段目立った存在でもなく、どちらかという地味な存在。でもそんな彼女は、物語の中で最も”かっこいい”存在に見えました。

 

本当の真実を見つけるために

自殺なのか殺人なのかが解明されないまま、あやふやにされようとしていた事件。警察も学校も、”オトナ”たちは、真実を知ろうとせず、現実に目を背けていました。

ソロモンの偽証」という題名は、旧約聖書に登場する、イスラエルの賢王ソロモンのことを指しています。賢王が偽証、つまり嘘をついているとは皮肉なものです。その題名の通り、オトナたちは、真実に蓋をして自分の心にウソをついているように見えました。

 

でも彼女は違いました。いかにして真実を突き止めるのか。子どもながらに、その方法を必死に考え続けていたのです。

 

そして出した答えが”学校内裁判”を開廷するということでした。周囲の大人たちが動いてくれないなら、自分で真相を突き止めるしかない。何もわからない暗闇の中を進んで行くしかない。

 

彼女は覚悟を決めて歩み出しました。

 

しかし、周囲の権力、つまり学校や警察、両親は辞めるように説得してきます。

「中学生の力では真相はわからない」「警察や学校が動いてくれるんだから信じなさい」。

確かに、それらの言葉は”当たり前”の正論に思えました。現実問題、中学生の力では何も変えられない。真相まで辿りつくことなんて出来っこない。僕もそう思いました。

 

“意志”の力が周囲を巻き込んでいく

けれども、彼女は「無理だから辞めておけ、諦めろ」と言って、反対していた人たちを味方に変え、裁判の開廷までこぎ着けてしまうのです。

 

彼女のもつ”意志の強さ”が周りを巻き込み、現状を変えていったのですね。

 

彼女は物語の中で言っていました。「他人から間違ったことをされて、その間違ったことを基準にして何かを決めちゃいけない。」と。

 

人間は強さと弱さのどちらも持っている

僕たちの周りには、おかしい・間違っていることが沢山あります。でも、「相手が怖い」、「軋轢を起したくたくない」といった気持ちから、見てみぬふりをしてしまいます。白だと思っていることを、黒に塗り替えてしまうんですよね。

 

これは藤野も同様でした。作中では、同級生の女の子がいじめられているシーンが出てきます。泣きわめき助けを求める少女を、藤野は助けに行かずに傍観し、その場を立ち去ろうとしてしまいます。自分もいじめられるのが怖かったという気持ちに嘘をついて、逃げようとしたんですね。

 

その時、この物語のキーマンである柏木君はそんな彼女に次のような言葉を投げかけます。

 

「どうして助けないの?藤野さんホームルームで言ってたよね?いじめはよくないって。そういうのを“口先だけの偽善者”っていうんだ。そういうのが一番タチが悪いんだよ」と。

 

この”口先だけの偽善者”というキーワードはこの物語の根幹を支えています。藤野が裁判を起こそうとした理由も、この言葉が原因の一つになっているからです。

人は時に強く、時に弱くなります。常に完全な存在ではなく、揺れ動いています。そんな人間の弱さを見せつけられる場面でした。

 

裁判の行方

物語は終盤に入ります。裁判が行われ、それぞれの主張が交差し一つの線となり、真実を導きだしていきます。

当初は、被告人を有罪にするか、無罪するかということが裁判の争点になっていました。

しかし、終盤になると、意外などんでん返しと、非常に大きなテーマが物語の背後にあったことに気づかされるはずです。

 

あとがき

本作品は、宮部みゆきさんが構想に15年、執筆に10年かけたと言われる最高傑作です。小説は全6巻、映画は全編(事件)と後編(裁判)の2つから構成されています。

 

宮部さんの作品の中では、最も長編の作品であり、ストーリー展開を含め内容については文句なしに面白いです。

 

もしまだ観ていない方がいれば、ぜひ一度ご視聴を!みて損はしない一作です。