- 売春(ワリキリ)の実態
- 出会い喫茶のルーツ
フィールドワークを元に、特定の現象を分析した書籍は世の中に溢れています。
経済であったり、恋愛だったりと対象にするものは様々だけれど、自ら足を運び地道に手に入れた「生の声や想い」を分析することで、世の中の流れは見えてくるのではないかと思います。
今回ご紹介したいのは、評論家である「荻上チキ」さんによる「売春女性」に焦点を当てた研究です。
みなさんが「売春」と聞いて想像するのは、一体どのようなものでしょうか?
きらびやかな女性の園、それとも危険が付きまとうといったネガティブなイメージでしょうか?
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本書「彼女たちの売春」では、性労働の実態を現場の声を聴くことで浮き彫りにしていきます。
世間で持たれているイメージと実際に働く人たちとのギャップ。
あるいは性を「売るもの」と「買うもの」との対比など。
なかなか垣間見ることの出来ない世界がそこには広がっていました。
本書では著者自らが様々な場所へと足を運び、今の日本で売春( =ワリキリ)をしている女性を取材しているため、リアリティがあり、説得力がある次第です。
出会い系サイトを活用した取材、全国の出会い喫茶やテレクラなどを訪れたりといった地道な調査。
3000人以上にもわたる膨大なデータを収集し、分析した結果がここには記されています。
メディアには中々取り上げられない分野ではありますが、その世界には様々な事情を抱えている人たちの姿がありました。
この記事を読むことで、
- 売春(ワリキリ)の実態
- 出会い喫茶のルーツ
がわかります。
本書の構成
本書の大まかな章構成は次のような感じになってます。
- 社会的な引力・斥力・・・風俗・ワリキリ・精神疾患
- 排除の果て、アウトサイドの包括・・・虐待・ホスト・DV
- 貧困型売春と格差型売春・・・学歴・貧困、ハウジングプア
- 母親としての重圧・・・離婚、中絶、シングルマザー
- 全国ワリキリ事情・・・車、パチンコ、買春旅行
- 3.11・・・自身、津波、原発事故
- ナナとの出会い・・・日記、メール、妊娠報告
- 買う側の論理・・・喫茶、サイト、利用データ
- 出会い喫茶のルーツ・・・自己決定、自己責任、自由市場
1章では、なぜ彼女たちがワリキリに走ってしまうのか。
その背景には、精神疾患が大きな要因としてあるそうです。
病気や疾患を持つ社会的な弱者が、排斥の果てにたどり着く場所になっています。
またワリキリをする彼女たちの世界観について、など。
2章では虐待やDVなどを経験した女性が多いこと。
そして彼女たちはホストにハマることが多く、借金という負に連鎖に巻き込まれていく可能性が高い
という事実に焦点を当てていきます。
3章では売春の種類について語られ、ワリキリ事情、買う側の事情、そもそも出会い喫茶はどのようにして生まれたのか?
と続いていく次第です。
性風俗で働く女性
精神疾患とワリキリの関係性
特に印象的だったのは、ワリキリを始める女性の多くが、過去に虐待やDVなどの被害を受けていたことです。
そして、その結果として「精神疾患」を抱えてしまっているとのことでした。
最近では、AV女優を含め、性産業にクリーンなイメージを持っていた自分がいます。
自ら志願してAV女優の道に進む人もいて、将来のごくごく普通の選択肢になりつつあると考bえていたからです。
どこにも行き場のない人の受け皿的役割
⬇︎
若い女性の憧れの対象
そんな図式へと僕の頭の中は塗り替えられていました。
セーフティネットとしての「性産業」
でも実態はまったく違ったんです。
やはり、性産業には最後のセーフティネットとしての役割が残っている。
性格的に社会に適合できなかったり、病気などで働けない人の受け皿としての役割を果たしています。
辛い経験がさらに不幸を呼び、泥沼へと転げ落ちていく。
もちろん自力でその場から抜け出せる人もいますが、その多くがホスト通いや風俗に手を出した挙句、甘い蜜を吸うのを辞められないという実態があるのです。
フィールドワークによる「生の声」
また本書では、筆者が実際に取材した方たちの境遇や思いを隠すことなく記載しています。
出会い喫茶に通い始めたきっかけや、普段客に思っていることなど。
中々知る機会がない内容ですので、読んでいてとても面白かったです。
書かれている文章も、ため口やギャル語であったりと様々。
未知の空間に迷い込んだみたいで、新鮮に最後まで読むことが出来ました。
出会い喫茶のルーツ
今までは、DVや虐待といったネガティブな側面をお話ししてきましたが、心温まるお話も書かれていました。
それは、出会い喫茶のルーツです。
大阪の難波にある「ツーバ難波店」
この店舗は出会い喫茶発祥の地と言われ、多くの人に親しまれてきました。
出会い喫茶の「生みの親」
店主は福田と名乗る一人の男性。
彼が出会い喫茶を作った張本人であり、お店に強い想いを込めたと言います。
彼の壮絶な生い立ちと込めた想いが印象的だったので、少し引用したいと思います。
もともと僕は捨て子やったんです。
親に捨てられ施設に入れられ、百姓の家にもらわれたんです。
(中略)
それからアングラな仕事に就いて、20代後半には莫大な資産を築きあげるんです。
人にはびっくりするくらいのお金を稼いでましたけど、まあ、所詮は成り上がりですから、儲けた金はほとんど賭博につぎ込んでました。
そこからなんの因果かは分かりませんが、難病になってしまって、医者に29歳で死ぬと言われたんです。
それを聞いて自暴自棄になって、若干残しておいたお金もそこで使ってしまった。
その後、彼はあいりん地区に流れ着き、待っていたのは路上生活でした。
拾い食いもはばからず、何度も自殺未遂するほど自暴自棄に陥っていたそうです。
でも地元のババアがくれた何の変哲もない「おにぎり」が彼を救ったんです。
「にいちゃん。あんた、金があるとき、サラリーマンがファミレスで家族そろって草履の底みたいな肉食いに来てるの見て、つまらん生き方やと思ってた口やろ。」
「そのとおりや。こいつら哀れや、どあほうやと思ってた。」
「せやけど、こんな暮らししてわかったやろ。その人にはその人の価値観があるんや。うまいもんは一つやない。にいちゃんは、もう一度一から頑張らなあかんで」
路上生活で追い込まれていた時にもらったおにぎり。
それは今まで食べたどんなものより美味かった。
ここからスイッチが入り、デートクラブを作ったり、結婚相談所をやったりと色々なことに手を出していきます。
そしてその一つが「出会い喫茶」だったわけです。
出会い喫茶のルーツは「彼女たちを救いたい」という気持ち
女の子も、誰も好きでこんな世界に来るわけないじゃないですやん。
やっぱりおかねがないからくるわけでしょう。
お金がなければ、自然の流れで売春っていう方法しかないですやん。
そういう子だけやなくても、ただ人と調和できないとか、理由があって朝起きられないとか、会社に順応でけへんこたちが働くとこがあってもいいんちがうやろうか。
自分の頑張った分は自分が貰う。
サービスの内容や客の選択もその人次第。
店に縛り付けるのではなく、彼女たちには自由を与え、お互いが協調していけるような場。
そんな場にすることを目指したのが当初のコンセプトでした。
現在のイメージとはかけ離れている部分もありますが、本当はそのような思いを込めて作られた場所だったのです。
最後に
本書では上述してきたインタビューを含め、数多くの女性の声が載せられています。
世の中で何が起こっているのか知りたい。
普段覗けない世界を見てみたい。
そんな好奇心を持った人であれば、本書は楽しんで読める内容になっていると思います。
ぜひ一読してみてください。
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