読書

天才同士の対話 | 『人間の建設』を通して”知性”を学ぶ 「小林秀雄×岡潔」

世界的数学者である”岡潔(おかきよし)”と批評家”小林秀雄”との対談を収録した『人間の建設』を読みました。

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学問の楽しみ方、美的感動、人間と人生への無知といった、示唆に富んだ対話内容は、平易だけれども深く、広く、しみわたるように浸透していく。

決して難しい言葉が使われているわけではありません。

けれども二人の織りなす言葉たちは、あまりにも深いです。

今を生きる人達とは、一世を隔すほどの知性がそこにはありました。

学問について

学問を学ぶ”とは、一体何なのでしょうか?

学校に入れば、テストの点数や他者との比較で優劣が決められます。

点数が良ければ優秀と見なされ、他者との関係性の中で、自身の立ち位置を把握していきます。

先生たちは、いい点数を取ればいい学校に行ける。

そして良い会社、ひいては良い人生を送れると語る。

この意味する所は、「学ぶコトは人生をよりよく生きるためのツール」だということです。

そのためには、好き嫌いなど関係がない。

とにかく必死で食らい付け。

未来のために頑張るしかない。

そう教えられているかのようです。

ただ対談者の”学ぶこと”、に対する考え方はまったく異なっていました。

少し引用してみます。

人は極端になにかをやれば、必ず好きになるという性質を持っています。

好きにならぬのがむしろ不思議です。

好きでやるのじゃない、ただ試験目当てに勉強するという仕方は、人本来の道じゃないから、むしろその方がむずかしい。

小林:好きになることがむずかしいというのは、それはむずかしいことが好きにならなきゃいかんということでしょう。

たとえば、野球の選手がだんだんむずかしい球が打てる。

やさしい球を打ったってつまらないですよ。

ピッチャーもむずかしいたまをほうるのですからね。

つまりやさしいことはつまらぬ、むずかしいことが面白いということが、だれにでもあります。

選手には、勝つことが面白いだろうが、それもまず、野球自体が面白くなっているからでしょう。

その意味で、野球選手はたしかにみな学問をしているのですよ。

ところが学校というものは、むずかしいことが面白いという教育をしないのですな。

より”シンプル”で”簡潔”に

現代社会では、あらゆるものが簡潔に、シンプルになり始めているように感じます。

一部のオタクにしか扱えなかったパソコンは、一般家庭に普及しました。

車はミッションからオートマに変わり、誰もが簡単に乗れるようになりました。

インターネットで検索をすれば、AIが”あなたへのおすすめ”を教えてくれるので、僕たちは考える機会を失いました。

簡潔にシンプルに

少ない労力で最大のリターンを得るこそが正しいことだ。

世の流れは、そんな状態こそが正義だと言わんばかりに変わりつつあります。

けれども、あまりにも便利になりすぎると、反対に面白さはなくなるのかもしれません。

“難しいもの”ほど、面白い

以前であればパソコン一台すら、満足に動かせませんでした。

ホームページを作るには、様々な知識が必要でしたし、そもそもパソコン同士がネットワークで繋がるなんて想像もできませんでした。

当時の技術者たちは、そんなまだ見ぬ未来を夢見て、理想を叶えるために出来ることを模索し、舵を前へ前へと進めていったのです。

この過程では、上手くいかなくて苦しんだことが沢山あったでしょう。

失敗ばかりで投げ出してしまおうと思ったこともあったはずです。

けれども投げ出さずに、試行錯誤した。

その内に愛着が湧いてきて、試行錯誤することの喜びを知ったのです。

目の前の課題が困難であればあるほど、乗り越えた際の達成感はひとしおです

この一連の流れこそが”学問”であり、”学び”だというのが、二人の主張となっています。

大学は”知”の最高学府である

今の大学は、就職予備校だと揶揄されるようになっています。

たしかに一部の上位層を除いては、「企業が求める人材の生産工場」と化しているのかもしれません。

しかしそもそも大学というのは、知の最高学府であり、世間とは隔した存在であるべきなのだと思います。

今の自分では到底わからない””に対して、学びたいという気持ちを持った学生たちが集結する場所。

そんな場所に対する、尊敬や畏怖の念がなくなりつつあるのがとても悲しいです。

知性に対する敬意

ネットで調べれば何でも分かる。

誰かが適当にそれっぽい答えを提供してくれる。

そんな状況では、知識や情報は軽視されてしまいます。

けれでも”知性“は知識や情報とはまったく違うものです。

知識や情報を頭の中で組み合わせ、新たな知として生み出す過程こそが知性なのです

学問とは何か、学ぶとは何か。

今失いつつある、”知”の大切さを教えてくれる一冊になっています。

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