オピニオン

いずれ訪れる”終わり”を意識すること 退職について考える

会社に就職した際、まず初めに決めておくべきことはなんだろう?

「この会社で絶対上まで上り詰めてやる」とか「誰にも負けないスキルを身につける」といった、意識の高い志を持つ人もいるだろうし、「残業はしたくない」とか「簡単な仕事しかしたくない」といった消極的な想いを誓った人もいるだろう。

僕自身は、後者の方で、「会社を辞める」時のことを、常に意識しながら働いている。

「辛くなったらいつでも辞めてやる」。
そんな意識を持って常に働いている。

同じ会社で一生働ける保証はない

僕は新卒で入社した企業を1年半ほどで辞めた経験がある。

当初は前者のような高い意識で働いていたけれど、結局身体がついていかなかったために、体調を壊して退職することになった。
なので、新しい会社に入っても、到底長く続けられないだろうと思っていた。

いつまた調子を崩すかもわからないし、以前とは全く異なる職種だったので、「本当に働けるのか?」という不安があった。

そのため、まず初めに想像したのは「辞める時のこと」だった。

就職なんて所詮くじ引きに過ぎない。
たまたま入った会社が合っていることはあれど、周囲を見渡してみると、多くの人は「こんなはずじゃなかった」と嘆いている姿をよく見かけたからだ。

最大のリスクヘッジは、リスクの分散である

企業はリスクを分散するために、常に様々な分野への投資を行っている。

飲食業を柱にしている会社が全然違う商品を売っていたり、不動産を運用していたりする。

それらはすべて、本業がダメになった時のリスクヘッジに他ならない。

「この分野がダメでも、他で収益源を確保する」。
そんな逃げ道を用意しておくのは、人間の生存戦略としても間違っていなんじゃないだろうか。

実際、「いつでも辞めてやる」という思いで働いていると、気楽な気持ちで働けるとともに、長く続くのではないかと感じている。

「辞めてもいい」と心に決めることで、”恐れ”や”不安”から逃れられる。

周囲へ意見する時も堂々と発言できるし、組織のルールや思想に縛られることもない。
加えて、逃げ道が用意されていることで、自身を客観的に俯瞰しやすくなる。

また、日々の業務に新鮮さを感じながら取り組めるのもメリットだろう。

明日辞めるのであれば、今やっている業務は「これで最後なのだな」と思いながら取り組めるだろう。
最後であれば、「盗める所は盗もう」とか「真剣に取り組もう」といった、前向きな気持ちにもなりやすい。

終わりを意識するのは、ネガティブな思考ではない

意外と「辞めること」を意識するのは悪くないんじゃなかろうか。

一見、消極的でネガティヴな思考に感じられるかもしれないけれど、”最悪の事態”を想定して物事に取り組むことは、プラスの効果を与えてくれるんじゃないかな。

どんな物事にも始まりがあれば、終わりがくる。
けれども終わりは、新たな始まりへと繋がっていく。
退職するという一つの会社員生活の終わりは、新たな生活への始まりを意味しているのだから。

人間を含め生物は必ず死ぬ。
その原理原則は、いつだって普遍的なものだ。

三島由紀夫は「命売ります!」の中で、自暴自棄になり、命を捨てるのを厭わなくなった主人公が、”生きること”への希望を見出す過程を鮮明に描き出した。

この物語が示したことは、”死を意識することで”生”が輝きを放ち始めるということだ。

これと同様に、「会社を辞める=死」を意識することで、「日々の仕事=生」が輝き出したりはしないだろうか。

最後に

辞めるのを意識することは、ネガティブなようでいて実はポジティブな考え方なのだと僕は思う。

必ずくる”終わり”を意識するということは、それだけ人生について真剣に考え、次の始まりに備える準備をしておくことを意味するからだ。

”段取り八分”という諺があるように、準備しておくことで物事を円滑に進めることができるし、余裕があれば最悪の事態は避けられる。
もし仮に必ずくる”終わり”を意識せずにいれば、何の心の準備が出来ていない所に、巨大な大砲を打ち込まれることにもなりかねない。企業の倒産やリストラといった大砲を。

今の状況に満足している人も、不満を持っている人も、いずれはくる”終わり”に目を向けてみるのはいかがだろうか。