オピニオン

アトピーが教えてくれたこと | 病気になって景色が変わった話

アトピー。

この病気は幼い子どもによく見られるものですが、大人になってから急に発症することがあります。

僕は20歳を超えて、急にアトピーになりました。

一般的なアトピー患者には、

  • 顔が赤くなる
  • 皮がボロボロに落ちている
  • 不潔っぽい

といった症状が現れます。

不規則な生活をしているから病気になるんだよ

綺麗に洗わないからいけないんじゃない?

そんな風に思われている方もおられるでしょう。

命を落とす病気ではないため、軽い病気だと思われているかもしれません。

しかし実態は、そんなに生易しいものではありませんでした。

アトピーは本当に苦しい病気であり、人生を簡単に狂わせる力を持っています。

僕はこの病気になってからというもの、「当たり前の生活」送れなくなりました。

この記事では

  • アトピーの辛さ
  • 僕が病気を通して学んだこと

について書いてみたいと思います。

アトピーの恐ろしさ

突然訪れた違和感

大学に通っている頃、当然顔が痒くなりだしました。

当初は「顔が少し赤くなってるな」という程度でしたが、日を追うごとに少しずつ痒みは増していきます。

当時はアトピーの知識が殆どなかったため、一番やってはいけない「痒いので掻く」という行為を繰り返してしまいました。

しだいに僕の顔は、少しずつ皮がボロボロと剥けるようになっていきます。

一晩枕でうつ伏せで眠ると、次の日には皮の大群が枕元に落ちるようになりました。

ただしこの頃は、友人と遊び行けましたし、授業にも問題なく参加できていました。

初めての就職

大学を卒業した後、僕は鉄鋼商社で働きだします。

ねじの法人営業をしており、外回りの毎日でした。

真夏の炎天下に取引先を走り回り、お客様との交渉や納品物の荷下ろしなど、一生懸命仕事に打ち込みました。

仕事は楽しく充実していたのですが、汗だくになりながら毎日を過ごした結果、少しずつ症状は悪化していきました。

初めは赤みだけだったのに、顔からは黄色い浸出液が溢れ出し、顔中を液状のかさぶたが覆うようになります。

皮膚は象のように固く、痒みが強すぎて顔にどうしても手が伸びてしまいます。

仕事に集中したいのに、痒みで集中できない。本当に気が狂いそうな日々を過ごしました。

これには鉄工所を訪問しなければならないという、職場環境も影響していたのだと思います。

ホコリや油まみれの工場の中で、機械を修理することもありましたので。

アトピーの悪化

僕は営業という仕事を、いつの間にか大好きになっていました。

就活をしていた当初は、絶対に営業職にだけはなりたくないと思っていました。

口下手だし人とのコミュニケーションが苦手なので、コミュニケーション力が必要な仕事は務まらないと感じていたからです。

しかしたまたま受けた商社に内定し、職場で揉まれるうちに心情の変化が現れてきました。

沢山の人と関われる、こんなに刺激的で面白い職種はないんじゃないか?

もしかしたら同僚を含め、取引先の方が優しくしてくれたから、そう思えたのかもしれません。職場は人間関係がすべてだと聞きますし。

けれども、その想いとは対照的にアトピーの症状はどんどん悪化していきました。

顔は湿疹だらけになり、黄色い浸出液が顔中から溢れ出します。

夜は痒みで眠ることができず、日中はイライラして仕事に集中できませんでした。

マスクで見た目を隠していましたがあまりにも湿疹が酷すぎて、液体がマスクから滲み出す始末です。

取引先の方にも「大丈夫か?」と心配されるまでに、重症化していきました。

毎日が地獄のようだった

休日は平日の仕事を乗り切るために、ひたすら体力の回復に充てます。

皮膚細胞を活性化させるために、ひたすら寝る。

入浴がいいと言われれば温泉に行き、漢方がいいと聞けば高くても取り寄せる。

すべてはアトピーを少しでも和らげるためであり、そうしなければ、仕事をこなすことは困難でした。

正直悔しくて、苦しくてたまりませんでした。

友人たちは入社した会社で充実した生活を送っていました。

せっかく苦労して入った会社なのに、僕はたった1年ほどで辞めなくてはならないのだろうか?

貴重とされる20代を病気と共に過ごし、いつまでも苦しみ続けるのかと。

健康であればもっと仕事を頑張りたいし、恋愛もしたい。

そう心では思っているのに、身体がどうしてもついていきませんでした。

なぜ自分がこんな目にあうのか。

僕は自らの境遇に対する怒りと、何も出来ない無力さにやるせなさを感じました。

そして「健康であること」の大切さを痛感したのです。

1年半で仕事を失った

そして、

もうこれ以上は仕事ができません。

という言葉が口から出たのは、就職して約1年半が経過した頃でした。

上司を前にして、いつの間にか言葉が口からこぼれ落ちていました。

僕はせっかく好きになれた営業の仕事を、アトピーで失うことになったのです。

病院を探す日々

退職する1年ほど前から、6件ほどの病院を転々としました。

町にある小さな医院、大学病院など、藁をも掴む思いで病院を渡り歩きました。

けれども皮膚科は適当なもので、先生によってまったく違う診断をされたり、処方箋を渡されました。

保湿を勧めてくる先生。

ステロイドの薬を飲むように指示する先生。

処方される塗り薬も先生によって異なっていました。

そうしたこともあり、僕は病院を信用する事ができなくなりました。

いくら通っても一向に良くならない。

こちらの苦しさが先生に伝わらない。

治らない怒りと不安から先生と口論になり、気まずい経験をした病院もあります。

もう一生治らないのではないかという絶望と恐怖に、心が支配されていたのです。

ようやく信頼できる名医に辿りつく

退職後、僕はようやく信頼できる先生と出会いました。

ここからようやく、原因探しの旅が始まります。

皮膚の一部を切除しての検査・アレルギー試験など様々な治療をしました。

実はこの時点では、かゆみの原因が特定できていなかったのです。

どの病院にいっても、大したことのない皮膚病として扱われたため、僕は藁をもつかむ思いで治療に励みました。

そして、最終的に出た結果は「アトピーの疑いがある」という結果。

今まで原因がわからず、絶望の中にいた心に希望の光が差した瞬間でした。

アトピーは完治が難しい病気

しかし、その希望も長くは続きませんでした。

アトピーという病気は、

  • 薬を飲めば治る
  • 手術をすれば完治する

ような病気ではありません。

基本的には、塗り薬の対処療法で炎症を抑えることしか出来ません。

あくまで治すのではなく「炎症を抑えるだけ」なのです。

何をやったら完治するかはわかりません。

急に良くなる人がいる一方で、いつまで経っても完治しない人がいます。

治療法が確立しておらず、薬に頼るだけでは簡単には治らない。

それが、アトピーの怖いところなのです。

薬を塗り始めた当初は、

よし!これでいつでも外に出掛けられる。かゆみを気にせず日常生活が送れるんだ!

そんな希望に満ち溢れていました。

なぜなら薬を塗り始めると、塗った数日間は症状がほとんど出なくなります。

ステロイドのパワーは凄まじく、まるで魔法をかけたかのように、あの気が狂いそうなかゆみから開放されるのです。

けれども数日経つと、リバウンドが起こります。

再び黄色い浸出液が溢れ出し、痒みが顔を襲うようなります。

その度に、僕の心は奈落の底にたたき付けられました。

治療から2年が経った

現在の僕は、IT企業で内勤の仕事をしています。

汗を掻くのが怖いため、外で動き回るような仕事は出来ないと判断。

その結果、室内の仕事を選びました。

治療から2年が経った現在も、皮膚の痒みと戦っています。

痒みが強い時は、夏場であろうとマスクが手放せません。

アトピーは出たり引いたりを繰り返すため、一喜一憂の繰り返しです。

仕事中であっても、痒みが強いときは集中できないため、普段の何倍も気を遣います。

休みの日であっても、外に出て食事にいけるような日は多くありません。

大半は平日のために、寝て過ごしています。

※追記(2018年7月)

仕事を辞めてから約3年。

ようやく、アトピーの苦しみから解放されつつあります。

自分の中で、

  • 何をしたら症状が悪化するか
  • 悪化したときにはどう対処するか

が理解できてきたからです。

無理せず、気長に治していきたいものです。

最後に

私たちの人生は、病気で簡単に変わります。

病気になれば日常生活すら、満足に送れなくなるからです。

今は調子が戻りつつありますが、いつぶり返すかわからない恐怖はいつも心の中にあって、心の底から安心できない状態が続いています。

いつも皮膚病にのど元を握られている気分なのです。

僕が病気になって分かったことは、「人間にとって健康ほど大切なものはない」ということです。

良い仕事に就いて、お金持ちになって、幸せな結婚生活を送ろうとも、健康を失った途端に、世界は灰色に変わります。

自分の身体が悲鳴を上げているなら、一歩立ち止まる勇気が必要です。

心の声を聴いて、本当に今の状態を続けていけるのか自身と向き合うことです。

無理をせず、身の丈にあった生活を。

人生で最も大切なことを病気に教えてもらいました。

苦しい時は、この本!

おすすめ⓵「真贋」 吉本隆明 著

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病気で苦しい時は、周囲の明るさに付いていく必要はありません。

まず行うべきなのは、現状を受け入れることです。

20世紀の思想家「吉本隆明」は「明るいのはいいことではない」と述べています。

物事には必ず良し悪しの両面があり、善悪二元論的な物の考え方をしてはいけないと。

本書には、病気と向き合うヒントのようなものが書かれています。

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本書は「博士の愛した数式」で一躍有名となった、森博嗣先生のエッセイ本です。
 
森さんは名古屋大学の工学部で教鞭をとる傍、小説家としてデビューしました。
 
理系の書くエッセイ本なので難しいのでは?
 
と思われるかもしれませんが、まったくそのようなことはありません。
 
  • 物事の捉え方
  • 人生で大切なこと
  • そんな風に考える人もいるのか
といった目から鱗のアドバイスが目白押しです。
 
平易な文章で書かれているので、どなたでもスラスラと読み進められると思います。